興行収入ゼロでもいい!? 新聞社が映画出資する理由
映画を製作する際のさまざまなリスクを回避するための方式として、生み出された製作委員会方式。近年、その製作委員会に新聞社が参加することが増えており、『日本沈没』のように興行収入53億円という成功を収めた作品も登場。最近では、朝日新聞社の『悪人』、読売新聞社の『八日目の蝉』、毎日新聞社の『毎日かあさん』など新聞連載が映画化されヒットに結びつくケースも見られるようになっている。
新聞の販売・広告収入を主な収益源としてきた新聞社がなぜ今、映画に出資するようになっているのか。12月10日に公開した『源氏物語 千年の謎』の製作委員会にも参加している毎日新聞社の宮脇祐介事業本部副部長がその流れを解説した。
※この記事は12月14日に行われたデジタルハリウッド大学大学院主催の公開講座「新聞社と映画製作」をまとめたものです。
●第3の収入を求めた新聞社
宮脇 私は、毎日新聞社の事業本部で、映画出資や版権の管理などに携わっています。新聞社で映画に関わる仕事というのは、学芸部で映画記者として関わる仕事、広告局で映画会社からお金をもらう仕事の2つが知られています。ただ、私の場合は映画の製作委員会に入りプロモーションを手伝って興行成績を上げて、DVDを売って、テレビに放映権を高値で売って、収益を得るというビジネスの方面で関わっています。
私の経歴をお話しすると、1966年に福岡県北九州市で生まれて、西南学院大学卒業後、1990年に毎日新聞社に入社しました。大学で広告サークルにいたので、広告の仕事をしたいと思っていたのですが、電通とかはコネなどもあって入りづらいという噂だったので、実力で入ろうとすると新聞社の広告局しかなかったのです。
実力があったかどうかは別として毎日新聞社の広告局に入り、人事部から「1週間研修に行って来い」と言われてから、はや21年です。長い研修と私は言っていますが、まず1994年に広告局で映画広告を担当しました。そのころは映画人口が1億人を切ったと言われる、洋画、邦画問わず非常に苦しい時期でした。そこで4年間、『フォレスト・ガンプ』『アポロ13』『ショーシャンクの空に』といった映画の広告企画を立案しました。
その後4年間、アサヒビールやキリンビールを中心にビール会社の新聞広告の仕事をして、その次にまた映画の担当になりました。普通は2回やらないと社内ルールで決まっているのですが、「今まで広告で携わった映画に、制作側から関わりたい」という希望が会社に通って、5年前、40歳前後の時に事業本部に行き、出資事業をやることになりました。
新聞社がなぜ映画事業を始めたのか。2000年前後、朝日新聞社、読売新聞社、毎日新聞社、産経新聞社、日本経済新聞社という中央5紙が映画出資に参入しました。当時、TBS、フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京といったテレビ局が広告外収入を求めて、映画出資をし始めていて、大きく当たっていた時代です。『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズ、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『日本沈没』(2006年)などが当たった映画で、2003年くらいから邦画全盛期と言われる時期が始まりました。
その時、新聞社の発行部数(日本ABC協会調べ)を見ると、2010年までの10年間で400〜500万部減っていました(2000年5370万8281万部→2010年4932万1840部)。これはだいたい、産経新聞と毎日新聞を足したくらいの部数の新聞が日本でとられなくなったということです。同時に新聞広告の売り上げは、2010年までの10年間で何と半分になりました(2000年1兆2000億円→2010年6396億円)。こういう状況下で、新聞社も広告・販売以外の第3の収入を考え始めたということです。
新聞社ではインターネット収入も伸び悩んでいます。15年前ほど前、インターネットの営業部にいた先輩が「見てみろよ、5年後には広告局の売り上げを抜くよ」と言っていました。確かに業界自体はそういう伸びを示していたのですが、実際はヤフーやグーグルというアクセスのあるところに収益はほとんどとられていて、さらに広告だけではなく物販やダウンロードの比重も大きくなって、新聞社は取り残されました。
2009年1月の統計でユニークユーザーは毎日jpの947万人に対して、ヤフーは2700万人。経験則でいくと、数が倍違うと、広告料金は多分3〜4倍違うんですね。ネットの広告ビジネスをやったことがないのではっきりとは言えないのですが、ヤフーの広告売上と毎日jpの広告売上がものすごく違うとは言えると思います。ここ15年でインターネット広告売上が十数倍になっても、新聞社のインターネット収入は伸び悩んでいます。
私がいるのは事業本部ですが、新聞社の事業で一番有名なのは美術展で、毎日新聞社も2012年3月31日からBunkamuraでダ・ヴィンチ展を行います。美術展は新聞社が紙面で伝えていたものを実物で見せるというのが事業の始まりで、歴史が長いです。
ほかにはスポーツ事業があり、毎日新聞社だと都市対抗野球や春の選抜高校野球大会。そして、将棋の名人戦や囲碁の本因坊戦、アワード(表彰)事業やメセナ事業です。朝日新聞社では住宅展示場のような大型事業なども手がけています。
美術展やスポーツ大会は仕込みがかなり大変で、美術展では図録の1つから作っていきますし、作品を借りる交渉もあるので、1つの事業に3〜5年かかってしまうため、1人当たりの事業収益は非常に悪いと言われています。美術グループの人は誇りを持って行われているので、そう言うとすごく怒られるのですが。
一方、映画出資は誰かが作ったものをプロモーションするだけです。今年は5本やりましたが、やろうと思えば1人の担当者で年間3〜5本できます。
映画では製作委員会に出資した中でどれだけの配当があるのかということ以外に、メディアとしての収入もあるんですね。テレビ局や新聞社、雑誌社やラジオ局なんかは有料出稿という収入があるんです。3億円の作品に1%(300万円)出資しても、それ以上の金額の広告をとれる可能性があるのがテレビや新聞の世界です。広告収入でリスクヘッジできることが分かったといいますか、周辺ビジネスがもうかるのではないかということで始めたのです。実際、読売新聞社の場合は広告局が映画に出資していたりします。
広告・販売収入、ネット収入が伸び悩む中、新聞社の事業はかなり様変わりしています。「メセナから収益事業へ」とここ5年くらいずっと言われていることなのですが、会社の持ち出しでやってきた事業を少なくして、お金の入ってくる事業に転換するという形で今もいろんな事業が淘汰され、新しい事業がおこっていると想像していただければと思います。
●絶対に1円も損しない作品もあった
日本の新聞社を米国の新聞社と比べた時の顕著な違いは宅配制度です。米国でも宅配は一部ありますが、主ではなく、日本の新聞社は販売収入に支えられていると言えます。
新聞社が一番良かった時期は、オイルショック以降からインターネットが広まる1996年ころまでと言われます。広告の売り上げと販売の売り上げが一番ピークだったのが多分1990年なのですが、ピークだった時にあぐらをかいてしまった部分が毎日新聞社だけでなく、各新聞社にあると思います。
石川幸憲さんの『ワシントン・ポストはなぜ危機を乗り越えたのか』という本では、ワシントン・ポストが景気の良かった15年間にこれから伸びるであろういろんな業種をM&Aして、それが今、新聞発行を支えているということを書いています。新聞社の売り上げがピークだった当時、M&Aは日本になじまない風習でしたし、そういうことをあまり行わなかったので、今、日本の各新聞社は苦境にあえいでいるのではないかと思います。
かたや、時を同じくして、映画業界が売り上げをあげていったんですね。1つにはシネマコンプレックス(シネコン)が全国に浸透してきたことがあり、今、日本のスクリーンの約80%がシネコンになります。
昔、あるホテルグループがシネコンを出した時、その担当者から面会を求められて、「なぜフィルムが回ってこないんだ」と言われたことがあります。シネコンの草創期、大手配給会社がフィルムを回さなかったということが実際にあったそうです。「どうすればフィルムが回ってくるのかね」という話をされて、「私にはちょっと高度な話なので分かりません」とお答えしました。今では東宝の劇場で松竹の映画がかかったり、松竹の劇場で東映の映画がかかったりと混沌とした状況で、数字が上がれば、日ごとに番組や席数をドライに入れ替えるようになり、それを背景にスクリーン数も増えてきたのですが。
映画の年間興行収入は2000年の1708億円から、2010年には2207億円になりました。そのうち邦画の興行収入は2000年は543億円だったのですが、2010年には1182億円と一気に上がっていきました。邦画本数も2000年の282本(全体は644本)から、2010年に408本(全体は716本)と、邦画隆盛の時代になっていきました。広告・販売以外のビジネスをやろうとした新聞社がこうした急成長を目の当たりにして、「もしかしたらここはドル箱になるんじゃないか」と各社雪崩をうったという形です。
当時、「この映画に出資したら絶対に1円も損しない」という作品が何本かあったんですね。配給・宣伝費は映画会社持ちで、興行で宣伝費が回収できなくても映画会社が持ちますと。さらにビデオグラム※のミニマムギャランティ(最低保証料)がイコール制作費ということで、「宮脇さん、お客さんが1人も入らなくてもこの映画は1円も損しません」と言われた映画がありました。
※ビデオグラム……VHSテープやDVD、Blu-ray Discといった電子記録媒体。
ビデオグラム市場は2006年ごろから縮小していると思うのですが、灯が消える前の一番燃え盛る時期に、「良いタイトルを自分の会社のラインアップに入れたい」ということから、高額なミニマムギャランティで映画が取引されたことがあったのです。しかも邦画が非常に調子が良かった時期で、出資して興行収入が10億円を下回る映画も少なく、当時の興行収入ランキングを見ていて「何であの映画がヒットしたのかよく分からない」という話も出るくらいです。
『宇宙兄弟』という映画を2012年5月3日に公開するのですが、その仕事の時にある版元の人から「宮脇さん、50億円以上の作品をやられたことはありますか?」と聞かれて、「『日本沈没』をやったことがあります」と言ったら、「どうやったら50億円を超すんですか?」と聞かれて、「いやあ思い出せない」と答えたことがあります。
それぐらい邦画に勢いがあった時代があって、当時、小学館、TBS、毎日新聞、東宝が広告宣伝を行って、渋谷でイベントをやった時に号外を出すとかやった覚えもありますが、何でこれだけ数字があがっているのかやっている本人たちも分からないぐらい、振り返れば邦画バブルだったんだろうなあと思うような時代がありました。
●新聞社として映画に出資する強みとは
毎日新聞社が初めて出資した映画は『模倣犯』(2002年)で、『源氏物語 千年の謎』(2011年)で24本目になります。『模倣犯』は10億円を超える興行収入で、ほかにも出資の数倍の配当があった映画もありました。
『レディ・ジョーカー』(2004年)は興行的には残念な結果に終わったのですが、原作を毎日新聞社で出版していたんですね。自社の原作を映画化する体験は初めてだったのですが、原作が20万部くらい追加で売れたので、自社の原作を映画化するのが一番だということに気付きました。これは30年前、角川春樹氏が「読んでから見るか、見てから読むか」というキャッチフレーズで映画を売っていたものを今さら知ったという感じなのですが。
『あらしのよるに』(2005年)は面白い座組みで、原作は講談社なのですが、小学館が出資していました。小学館と毎日新聞社がフィルムから絵本を作ったのですが、17万部売れて、利益は映画の利益より大きくなりました。こういうところでも、広告以外にも入ってくるものがあるんだとよく分かりました。
『手紙』(2006年)も原作は毎日新聞社ですし、『犬と私の10の約束』(2008年)は今、ソフトバンクのCMで有名になったコピーライターの澤本嘉光さんに、広告の空き枠に連載小説を書いてもらって、連載後に出版して8万部、アスキー・メディアワークスで文庫化して7万部売れました。『劇場版MAJOR』(2008年)も絵本が8万部売れました。原作でなくても出版すると大きなビジネスになるということで、他社からよほど「出版してほしくない」と言われた映画以外は関連書籍を出版するようになりました。
ただ、『レディ・ジョーカー』と『手紙』は原作が毎日新聞社なのですが、原作の窓口としての役割は果たしていなかったんですね。当時、そういう発想が新聞社になかったといいますか、新聞広告の何千万円という世界と比べて、窓口手数料は数十万円からとそれほど大きくないので、手間を惜しんでいたんです。
しかし、手間はあるものの、原作権を握るといろんな情報が入ってくると分かったので、私が正式に事業本部に配属された時、『毎日かあさん』の映像化の窓口を任せてもらいました。
『毎日かあさん』のDVDに、原作者の西原理恵子さんに書き下ろしていただいた『毎日かあさん 特別編』という漫画が特典で付いているのですが、その1ページ目が私たちのエピソードです。
最初、私たちも原作者の代理人という概念が分からなくて、小学館の人にお酒を飲みながら「契約書をどう作るの?」と聞いたら、「そんなの渡せるわけないだろ」と言われたので、「何となくこんなものじゃないか」というものを手探り状態で作って、西原さんのところに行きました。すると、「金になるかならんか分からん人に割く時間はございません」と言われて、「そこを何とか30分だけ」と門をこじ開けて入っていきました。
お茶も出されずにとくとくと話して、「じゃあお金が入るなら契約してやる」と言われて、「『毎日かあさん』の映画化の権利を1年間おさえるのは数十万円です」と言ったら、やっとお茶が出てきて、「もしこれが本当に映画化されたらいくらになるの?」と聞かれて、「だいたいこれぐらいですかね」と話をしたら、次から時間をとっていただけるようになりました。ただ、結局映画を作るのには5年かかりましたね。
今ではちゃんと電話にも出ていただけますし、お茶も出していただけますし、先日はちょっとだけおごってもらいましたし、そういう作家さんとの信頼関係ができて良かったと思います。その半面、1からやる怖さや楽しさなど、いろんなものを経験したので、私にとって『毎日かあさん』は一生忘れられない作品になると思います。代理人の仕事では原作者の方を向かないといけないし、映画に出資することになれば今度は映画制作側に立たないといけないので、板挟みな感じの毎日を送ることになるのですが。
よく酒が入った席で、「宮脇さん、個人で映画出資しますか?」と聞かれることがあります。私は「絶対にしません」と言います。なぜなら私は媒体を持っていないからです。
よく、「映画はギャンブルだ」と言われますが、本当にギャンブルかどうかというと、僕は多分違うと思っています。それはなぜかというと、個人投資家と違い、毎日新聞社は所有するメディアを使って宣伝できます。それはTBSや小学館もそうですが、出資社が媒体を持っているがゆえに出資をしているということ、出資に対する配当以外の収益があるからこそ続けられるんだということを常日頃話しています。
●ヒット映画の製作委員会のメンバーは限られている
ちなみに、ヒット映画の製作委員会のメンバーは限られています。テレビ局だと在京局と在阪局。雑誌社だと小学館、集英社、講談社、文藝春秋社、新潮社、角川書店。新聞社は積極的にやっているのは最近、朝日新聞社と読売新聞社、毎日新聞社くらいになりましたが、この3社。ラジオ局ではFM東京。取次では日販、そしてヤフーあたりでだいたいヒット映画の製作委員会は構成されているのではないかと思います。
ここ10年前後でつちかった信頼関係の中での勝利の方程式というのがみんな何となくあって、同じメンバーでグルグル回っているような気がします。その一角に入るのが本当に難しいことで、毎日新聞社も『宇宙兄弟』には頼み込んで入れてもらったという感じです。
もうすぐ日本映画製作者連盟から2011年の興行収入10億円以上の作品が発表になるのですが、その作品名に「製作委員会」を加えて検索すれば、先ほど申し上げた会社でほとんど成り立っていると言っても過言ではないくらいです。その中に今、新しくいろんな会社が入ろうとしているのが現状です。
先ほど『毎日かあさん』の話をしましたが、「もっと早く原作権をとっておけばよかった」と思うことがあります。活字業界では新聞社より先に出版社の方が早く悪い時期を迎えたんですが、その時に彼らが一番目指したのは自社の原作を映画化することでした。その先駆けとなるのは小学館の『ドラえもん』だと思います。早くから入っていると、人間関係ができてくるし、実績もできてくるし、それに契約状況も違うんですね。
原作権について、小学館の人と酒を飲みながら、「メモなんかとっちゃだめだよ」と言われつつ取材していた時、原作使用料は同じ作家であっても出版社が違うと異なってくると聞きました。もっとすごいのはビデオグラム。今度、ビデオやDVD、Blu-ray Discを手に取る時に見ていただきたいのですが、“発売元”“販売元”と分かれていることがあるんですね。多くの出版社、特に小学館は必ず発売元をとるビジネスをしています。そうするとビデオの利益も入ってくるんです。
私もちょっと欲を出して、「ビデオの発売元をやりたいんですけど」と話したら、「DVD市場が今非常に苦しい中、毎日さんが発売元に入ったら、販売元はいなくなりますよ」と言われました。業界が盛り上がっていて高収益だった時に原作権をとっていれば、原作使用料が違っていたでしょうし、ビデオグラムの販売から得られる収入も違っていたでしょうし、ビデオグラムの発売元にもなれたかもしれません。
「2005年に原作権をとっていれば良かったのに」という話は一緒にやっていた人と常に言っていることです。実績がモノを言う世界なので経験があるところに利益が入る、後発が不利だというのはどこの業界も同じだと思うのですが、これは映画業界の原作ビジネスでよく言われていることです。
先ほどの出版社6社がうまく商売をやっているのはうらやましいなあ、先人がいるからいいなあと思うのですが、それはそれぞれの出版社なりに先人たちが苦労した結果です。
小学館は『ドラえもん』『ポケットモンスター』『名探偵コナン』という必ず当たる3作品を持っています。最近は『神様のカルテ』(2011年)や『岳-ガク-』(2011年)のようなチャレンジングな実写映画にも手を出せるようになっています。私は小さな小学館になりたいと思っているのですが、なかなかなれないところです。
集英社は小学館より少し遅れて入ってきたと思うのですが、『ONE PIECE』を中心にいい実績を残しています。
講談社はここ2年くらい映像ビジネスに力を入れ始めていて、最近では『モテキ』『カイジ』『のだめカンタービレ』ですね。あまりヒットしませんでしたが、『一命』(2011年)では製作委員会の幹事会社として取りまとめをしたのですが、そこまで進出したということで、これから積極的に映画を作っていくんだということが外から見ても分かります。
文藝春秋社は今まで映画出資をしていなかったのですが、最近始めました。あくまで私の推測ですが、文芸社の一番大切な仕事は作家先生を抱えていくということなのですが、出版から映像まで面倒をみますよというシフトチェンジをしたのかなと。憶測の域を出ないのですが、村上龍さんが電子書籍の会社を自分で立ち上げた時期と前後しているのは偶然じゃないと思っています。
一方、新潮社は一切映画出資しないというスタンスです。より多くの作品をより早く映像化していくというビジネスに特化しているんじゃないかということが、周りで見ていて感じられます。版権を所持して手数料をとりながら作家を満足させていくというところで、文藝春秋社と新潮社は違ったスタンスをとっているため、この2社の成り行きは注目ということで、私もいろんなところで「この2社は最近どうなの?」と聞くようにしています。
それから『源氏物語 千年の謎』の幹事会社である角川書店。『沈まぬ太陽』(2009年)なども作っているのですが、非常に書店への営業力のある会社で、グループ会社も含めてかなりの営業を書店に張り付けていることが、今回改めて分かりました。多分今、書店に行くと、(『源氏物語 千年の謎』主演の)生田斗真氏のポスターに見つめられるという状況になっています。
またメディアミックスということで、先日『源氏物語 千年の謎』の関連書籍で夢枕獏氏の『秘帖・源氏物語 翁−OKINA』が発売されました。これは単行本・文庫・電子書籍同時発売というものでした。それ自体は珍しくないのですが、角川書店の電子書籍はニコニコ静画と提携していて、小説に一般読者が突っ込めるソーシャルリーディングという非常に思い切ったことをやられているんですね。角川歴彦氏ならでは、夢枕獏氏ならではということで、それが角川書店のすごみだと思っています。
角川書店はかなりネット関連企業と提携しているのですが、先ほど触れた『ワシントン・ポストはなぜ危機を乗り越えたのか』と同じようなことを今、やっているのかなと思います。この前、メディアファクトリーを買収してライトノベル市場で8〜9割のシェアをとったということで、「独占禁止法違反だな」という話を冗談でしたりします(笑)。そうした書籍の利益をうまくいろんなネットの会社に投資しているということで、角川書店がこれからどこに行くのかということも違った意味で注目だと思っています。
30年前の「読んでから見るか、見てから読むか」から始まって、この6社あたりが原作使用料はいくらだとか、ビデオグラムの取り分は何%だとかを決めていった後、新聞社が映画出資に入っていきました。
出版社で映画に関わった第一世代がちょうど定年になる時期なので、最近いろんな昔話を聞く機会があります。酔っぱらいながら聞いた話で、しかも小学館の人と話す時にはメモをとってはいけないというのが鉄則なので間違っているかもしれないですが、例えば小学館では最初は宣伝部に出資部門があって、映画がヒットしなくても「宣伝になったからいいじゃん」で片づけた時期があったそうです。その後、本が売れるなら販売局の利益でやりなよとなって、編集局が出資した時代もあるらしいですが、いろんなところを転々として、『ドラえもん』『ポケットモンスター』『名探偵コナン』という3本柱ができた後にマルチメディア局ができて、やっと自分たちの安住の地ができたころには定年になったということでした。
活字の会社で映画をやるというのは、出版社でさえそんな感じなので、新聞社でも楽な仕事ではないというのがご想像いただけるのではないかと思います。毎日新聞社には社員が約3000人いますが、映画出資の事業に関わっているのは私と入社3年目の女性の2人だけです。ほかの事業も抱えながら、「こんなに仕事したくないのに」と言いながら契約書を読んだり、直したりして、1.5人分くらいが稼働しています。小学館でも、映画はビデオグラム部門合わせて社員7人という少ない人数でやっています。
たまたまなのか必然なのか、去年から今年にかけて新聞連載から生まれたヒット映画が3本ありました。朝日新聞社の『悪人』、読売新聞社の『八日目の蝉』、毎日新聞社の『毎日かあさん』です。ちゃんとした原作がちゃんと映画化されるとヒットすると体感できたのが、この3本の作品だと思います。
新聞や『サンデー毎日』のような雑誌で連載していたものが書籍化されて映画化されると、タイトルの認知は高くなりやすいです。朝日新聞社は初めて自社が原作権を持って映画を作ったのですが、「これだけビジネスメリットがあるんだな」と担当者が言っていたように聞いています。
先ほど申し上げた通り、映画は作り始めたところにいないと利益誘導しにくいので、そういう意味でも朝日新聞社などは自社の原作を映画化していくことを積極的に行っていくでしょうし、毎日新聞社でも『毎日かあさん』のようなことをどんどんやっていかないといけないと思っています。
●映画市場は変わったか?
それでは2011年はどうだったのかという話なのですが、震災の影響ではないとみんな言ってはいるのですが非常に悪い成績で、2010年比80%台かなと業界ではささやかれています。2010年の興行収入2207億円から20%落ちるということで、1800億円くらいですね。1999年以来の1800億円台かということなのですが、怖いのはスクリーン数が当時と全然違っているんですね(1999年2221スクリーン、2011年3340スクリーン)。
「今年はダメだったね」とあからさまに言ってしまうのが映画業界のいいところなのですが、何となく「構造的にやばいんじゃないかな」という雰囲気も漂っています。負けた映画を持ってきた人でも次にまたケロッと負けそうな映画を持ってきてくれることが僕が映画業界の大好きなところで、1作終わればリセットというところが映画気質と言いますか、「次はもうけさせてやるからさ」とは必ず言わない彼らの潔さが非常に大好きで、滅多に真面目な話をする人もいなかったのですが、最近は「構造が変わったかもしれないね」と言う人も多くなってきました。スクリーン数は多分今年が最後の増加になって、来年から減少していくのではないでしょうか。スクリーン数の減りと、それに伴う興行収入の減りがどこまで抑えられるのかということですね。
みんな表の場では「震災の影響はなかった」と言います。しかし、当時『毎日かあさん』を上映していたのですが、お客さんの入りは前週比20%になりました。80%マイナスでそのまま回復せずに終わったのですが、やはり狭いところに行きたくなかったからということでしょうか。
また、邦画はみんな『世界の中心で、愛をさけぶ』をモデルに作っていると言っても過言ではないと思います。難病の登場人物がいて泣ける、誰かが死ぬというところでドラマツルギーがあったのですが、そういう映画が当たらなくなりました。
『アントキノイノチ』(2011年)には期待していたのですが、初日と2日目で興行収入が8000万円ほどというのを見た時、やっぱりつらい現実を見た人がもっとつらい現実を劇場にお金払って見に行かないんだなということをすごく感じました。『アントキノイノチ』が当たらなくて、『モテキ』が当たるというのが今の邦画市場なのかなと思っています。
そういう形で市場が変わったのではないかと言われているのですが、毎日新聞社では映画出資を10年間続けてきて、負けてもいるのですが、いまだに出資した以上の配当が返ってきているという実績があります。こういう会社は珍しいらしいのですが、この貯金がなくなったら解散しますと上には言っています。
邦画バブルの時期に自社の原作を映画化できるようになったので、小学館や集英社、角川書店には後れをとっていますが、もう1回頑張ってみようと思っています。原作の窓口をおさえることもそうですが、例えば新聞に載った事実を小説にして映画化するというなかなか具体的にならない案とか、いろいろあったりします。
次は、朝日新聞社が映画化した『悪人』の原作者である吉田修一氏の新聞連載『横道世之介』を映画化するのですが、原作から映画を作って新聞社に何ができるのかということを体感して、後輩たちに残していきたいと思っています。
また、それとは別に、ODS(非映画コンテンツ)をやってみたいと思っています。例えば、今はやっていないですがAKB48の総選挙やじゃんけん大会を劇場で中継するといったことです。ティ・ジョイの劇団☆新感線シリーズや松竹のシネマ歌舞伎がODSの先駆けだと思うのですが、ニッチな人に向けた非映画コンテンツを作って、収益をあげるビジネスをやっていこうと考えています。
囲碁将棋の担当者が今、私の隣に座っているのですが、朝日新聞と共催している将棋の名人戦よりもうかる試合が1つあるらしいんですね。それは名人への挑戦者を決めるA級順位戦で、ものすごく盛り上がって千駄ヶ谷の将棋会館は人があふれるという話を聞いています。それを全国の劇場で流せばどうなるかという話を今、ある映画会社と話しています。
都市対抗野球も非常にニッチなのですが、ある映画会社の営業に「東京ドームで試合をやるんだけど、例えばJR九州が出場した時、社員は東京まで見に来れないから、JR九州の大きな支店がある地域の劇場で流したら、企業動員できるんじゃないか」と話したら食いついてきました。ただ、「トーナメントなので、1回戦はおさえられても、勝ち進むか分からないので2回戦以降はどうすればいいのかという問題はあるね」という話もありますが。
なぜその2つをやるのかというと、CS放送が入っているため、制作費が限りなく安く済むからということがあります。そういうコンテンツをもし映画館で流したらどうなるのかということを、リスクをあまりかぶらずにできるんじゃないかと。
なぜこれをやり始めたかというと、はっきり申し上げると『犬と私の10の約束』『劇場版MAJOR』『毎日かあさん』などは良かったのですが、そのほかの作品が結構苦戦しているんです。広告収入があったり、出版収入があったりしていいじゃんという話を今までしていましたが、「じゃあ事業本部単体の利益はどうなの?」ということが最近問われています。
「出資に対するリターンがこの成績だと映画事業は続けられない」というようなことを部門長から言われていて、事業本部にメリットのあることは何かと考えたらそういうことなのかなと。原価を抑えて映像化できれば、ある程度の収益になるのではないかと思っています。
●五月雨をあつめてはやし最上川
『あらしのよるに』は伊藤忠商事が出資しているのですが、名刺交換をした時、モリゾーとキッコロの絵が描いてあったんですね。ちょうど愛・地球博の時だったのですが、「終わったらどうするんですか」と聞いたら、「いや、考えていない」と。
CSR(企業の社会的責任)が言われ始めたころだったので、「いやいや、モリゾーとキッコロという環境のキャラクターを持っている会社が終わったら知らんぷりということは、きっと許されないはずですよ。実はうちに『MOTTAINAI※』というキャンペーンがあって、商品を作りたいのですが、新聞社には商品作りのノウハウがないので一緒にやりませんか」と、「あらしのよるに」製作委員会が月1回あったので、会うたびにしつこく言っていたんです。
※MOTTAINAIキャンペーン……ケニアでの植林活動(グリーンベルト運動)が評価されて、2004年に環境分野として初のノーベル平和賞を受賞した故ワンガリ・マータイ氏が始めたキャンペーン。「もったいない」は3R(Reduce、Reuse、Recycle)をひと言で表す言葉で、命の大切さや、地球資源に対するRespectという意味も込められていることから名付けられた。
すると、「じゃあ話を聞いてみよう」となって、伊藤忠商事の人と、MOTTAINAIキャンペーンを担当していた僕の先輩を引き合わせたところ、話がトントン拍子に進みました。もともと先輩はMOTTAINAIのロゴを使ったTシャツを作っていたのですが、伊藤忠商事の協力で8000アイテムくらいの商品が日本に出回って、そのロイヤリティが毎日新聞社の事務局経費、伊藤忠商事の手数料、グリーンベルト運動への寄付に回されることになりました。今までエンタテインメントの仕事ばかりしていたので、環境に貢献する仕事ができて良かったと思うと同時に、新聞社がロイヤリティ収入を初めて体感したのが、このMOTTAINAIキャンペーンなんですね。
今までの新聞社は400万部新聞を売って収入がいくらだとか、15段の広告を1本この会社に売ったら何千万円だとか利幅の大きい仕事をして生き延びてきました。しかし、広告の売り上げが10年間で半分になって、もっと言うと私が入社した1990年と比べると4分の1くらいになっていると思うんですね。大きな商売がしづらくなった中、MOTTAINAIキャンペーンのロイヤリティ収入がいくらとは言えないのですが、2010年にかなりの数字があがったことを見て、ちょっと社員の意識が変わってきたのかなと。
ODSで将棋の中継をやっても、もうかるお金は多分大したことはないと思うんですね。数十万円くらいだと思います。入社1〜5年目の後輩たちと酒を飲む機会もよくあるのですが、その時に「新聞社はこれからどうやって生きていったらいいんですかね?」と聞かれた時、僕は必ず「五月雨をあつめてはやし最上川」と言います。新聞社は今までみたいなおいしい商売はできないし、ガラッと変える収入源もきっとないはずなんです。だから、原作の窓口のように手間を考えると大した収入ではないですが、今までロスしていたものを煩雑にはなりますが、取っていくしかないのかなと。
新聞社はロスしている部分ってものすごく多いんですね。今まで見捨てていた10万円も10本集めれば100万円ですし、100万円も10本集めれば1000万円なので、そういったビジネスチャンスを多く生かしていくことが今後の新聞社の生き残り方かと思います。
新聞も電子ペーパーとかいろいろ変革の時期があると思いますが、そんなにもうかる仕事ではないと思います。iPhoneでも一番読まれているのは多分産経新聞だと思います。残念ながら、タダのものが一番読まれているという状況なので、新聞社がこれから大きなお金を集めていくのは至難の業かなと。
「もし将来があるとするなら、今までめんどくさくてやらなかったことをたくさん集めていくしかない」という、あまり夢のない話をいつもしていて、後輩から「それしかないですかね?」と問われて、「それしかないんだ」と答えるような、なかなか夢を描けないような時代になってきました。
ただ、時代の変革期は多分いろんなことがあると思います。田舎の大学から東京の新聞社に入って、広告の仕事は先輩がたくさんいたのですが、映像の仕事についてはほとんど手探りで今までやってきて、何とかなっているということで、気持ちが折れない限りは何かできるのではないかと思っています。ビジネスとロマンが両立しないと映画は成り立たないと思っていますが、どちらもものすごく大切だということで今日の話を締めさせていただきます。
●出資を決めるポイントは?
——出資する映画を決めるに当たって、どういったことがポイントになるのでしょうか。
宮脇 これは非常に難しいところで、今まさに私が問われているところです。持ち込まれる映画がほとんどで、ある映画をやっている時に「次にこんな映画があるけど入らない?」と誘われたり、毎日新聞社が映画に出資していると聞いた人が飛びこみで来るところもあります。
飛びこみで来た人に必ず言うのですが、まず配給が決まっていることですね。邦画は2010年に408本上映されていますが、作られているのは600本くらい、もしくはそれ以上かもしれません。松竹、東宝、東映などの映画会社が作っていれば配給が決まっているわけですが、持ち込まれる映画は決まっていない場合が多いんですね。配給されない映画は収入がないので、「配給が決まっていないなら、うちではちょっと出資の検討はできません」と話します。
もう1つは、当たる確率があるかです。そこは非常に難しいところで、データはあります。例えば、2010年に興行収入が25億円以上いった作品は12本ありますが、そのうちの1本以外はある会社なんですね。だから、そのある会社の映画がいいんじゃないかという判断も働きます。
あとは監督やキャスト。例えば(プロモーションで)すごく稼働してくれるキャストもいれば、スケジュールもあると思うのですが稼働してくれないキャストもいると思います。今回の『源氏物語 千年の謎』では、「生田斗真さんに会ったらみんなで頭を下げよう」と言うくらいいろんな番組に出ていただきました。タレントとしてのバリューもありますが、タレントのバリュー+どうやってプロモーションしていただけるかということが大事です。
だからまず配給会社があって、それから映画の内容、原作が売れているのかということもありますし、キャストが誰か、前後に映画が決まっているか、映画のプロモーションをやってくれるかということとか、いろんな条件が積み重なっていって、最終的に脚本も読みますし、そういうものを全部考慮した上で、経験からこれくらいいくんじゃないかというものに出資するという感じですね。
持ち込まれる映画は多い時で月に10本くらい来る時もありますし、来ない時はまったく来ません。今月はまったく来ていないのですが、その中で持ち込まれたものを精査していきます。
別のパターンとしては、『宇宙兄弟』は僕は全然原作を知らなかったのですが、広告局で宇宙の企画をやっている後輩から「宮脇さん、『宇宙兄弟』に出資しないんですか。この1話読み切りを読んでください」と言われたのがきっかけです。『宇宙兄弟』のWebサイトに1話読み切りが載っているのですが、それを読んだ瞬間、私は涙があふれて「これはいける」と思い、作っていたのがたまたま『岳-ガク-』のプロデューサーだったので、すぐに電話をして、「製作委員会入れてよ」と話したというところです。これからはどちらかというと、そういう形を多くしていきたいと思っています。
例えば、フジテレビが出資している映画の製作委員会を見ていただければ分かると思うのですが、多分配給会社と原作者と系列しか入っていないと思うんですね。もうかる自信があるから、ほかにパーセンテージを渡したくないということです。角川書店も以前はそういう感じでやっていました。やはり、「これはもうかる」と思ったものをみんな薄めたくないんです。
——宮脇さんの評価はどのように決まるのですか。
宮脇 評価は見る人によって違います。社長は「全体最適だ」と言っています。ある映画に出資したら、全体としてもうかればいいんじゃないかと。この前、広告局にちょっと出資させたら、結果的には良かったらしいのですが、「あまりリスクはとりたくない」と言われて、「たくさん広告もらっているでしょ」と返したら、「ごちそうさまです」と言われました。出版局も関連書籍を出して、2回ほど売れなかったことがあるのですが、それ以外は全部売れているので、横のつながり的な評価はいいです。
しかし、事業本部という部署にいる限り、「じゃあ、事業本部の利益はどうなの?」と言われた時が一番「うっ」というところで、「広告がこんなに入ってきましたし、関連書籍も売れましたし」と言ったら、「お前は幸福な王子か。お前の金品を人に渡しているのか。どこにいるんだつばめは」と怒られて、やはり事業本部に出資がどれだけ戻ってくるかを評価軸にしないと、いろんな言いわけをしているだろうと言われるので、反省も含めて来年以降は自分の価値は投資したものがどれだけ返ってくるかということ1点に絞りますし、会社的にもそういう方向に向かっています。
——大成功と大失敗について教えてください。
宮脇 何を持って大成功や大失敗というかが難しいですね。
『日本沈没』が53億円の興行収入をあげた時、夏公開だったのですが、8月に携帯電話に知らない電話番号から着信があって、私の中学校の同級生だったのですが、酔っぱらった声で「おお、祐介。今、同窓会でお前の名前が話題になっている。『日本沈没』で最後に出てきた名前はお前か?」と聞いてきたので、「俺だ」と答えたら、「何で同窓会に来ないんだ、みんなムッとしてるんだよ」と言われて、「いや、呼ばれていないし」みたいな話だったのですが、その時に53億円という興行収入のすごさを感じました。
もう1つ、自分の仕事で成功したのは『毎日かあさん』だと思います。「よく素人でここまでできたな」と思います。私は本当に一生懸命いろんなところに、酒を飲みに行きましょうと言って、酔っぱらいながら取材したのですが、だいたいみんな「裏があるな。何か聞きたいんだなこいつ」というのが分かるんですね。でも、それでも教えてくれた人がたくさんいて、その人たちが定年になったり、定年間近になったりしているのですが、映画業界の中でも出版社、特に小学館の方々にはお世話になって教えてもらいました。
その聞きかじりで『毎日かあさん』を映画化できて、アニメ放送もできたというのは大成功だったと個人的には思っていますが、会社的には「ちょっと損してんじゃないの?」と言われています。
大失敗はこれから起きそうですね。先ほど言ったように自社の作品を映画化する時、出版社の立場として作家先生の代理をやらないといけないというところと、映画制作をやるというところが、一致する部分がほとんどなのですが、相反するところがきっと出てくると思います。作家先生が出版社に原作権を任せるということは、「自分を出版社が守ってくれる」という気持ちがきっとあると思うので、そういうところで多分板挟みになって大失敗するんじゃないか、それが怖いなと思いながら日々仕事をしています。
出資をして1円も戻ってこなかったという映画もありますが、それはそれなりに次のプロジェクトにつながったり、広告収入が多かったりということがあるので、大失敗というのは多分これから起きるんじゃないかと思っています。[堀内彰宏,Business Media 誠]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111222-00000050-zdn_mkt-soci
※この記事の著作権は配信元に帰属します。
新聞の販売・広告収入を主な収益源としてきた新聞社がなぜ今、映画に出資するようになっているのか。12月10日に公開した『源氏物語 千年の謎』の製作委員会にも参加している毎日新聞社の宮脇祐介事業本部副部長がその流れを解説した。
※この記事は12月14日に行われたデジタルハリウッド大学大学院主催の公開講座「新聞社と映画製作」をまとめたものです。
●第3の収入を求めた新聞社
宮脇 私は、毎日新聞社の事業本部で、映画出資や版権の管理などに携わっています。新聞社で映画に関わる仕事というのは、学芸部で映画記者として関わる仕事、広告局で映画会社からお金をもらう仕事の2つが知られています。ただ、私の場合は映画の製作委員会に入りプロモーションを手伝って興行成績を上げて、DVDを売って、テレビに放映権を高値で売って、収益を得るというビジネスの方面で関わっています。
私の経歴をお話しすると、1966年に福岡県北九州市で生まれて、西南学院大学卒業後、1990年に毎日新聞社に入社しました。大学で広告サークルにいたので、広告の仕事をしたいと思っていたのですが、電通とかはコネなどもあって入りづらいという噂だったので、実力で入ろうとすると新聞社の広告局しかなかったのです。
実力があったかどうかは別として毎日新聞社の広告局に入り、人事部から「1週間研修に行って来い」と言われてから、はや21年です。長い研修と私は言っていますが、まず1994年に広告局で映画広告を担当しました。そのころは映画人口が1億人を切ったと言われる、洋画、邦画問わず非常に苦しい時期でした。そこで4年間、『フォレスト・ガンプ』『アポロ13』『ショーシャンクの空に』といった映画の広告企画を立案しました。
その後4年間、アサヒビールやキリンビールを中心にビール会社の新聞広告の仕事をして、その次にまた映画の担当になりました。普通は2回やらないと社内ルールで決まっているのですが、「今まで広告で携わった映画に、制作側から関わりたい」という希望が会社に通って、5年前、40歳前後の時に事業本部に行き、出資事業をやることになりました。
新聞社がなぜ映画事業を始めたのか。2000年前後、朝日新聞社、読売新聞社、毎日新聞社、産経新聞社、日本経済新聞社という中央5紙が映画出資に参入しました。当時、TBS、フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京といったテレビ局が広告外収入を求めて、映画出資をし始めていて、大きく当たっていた時代です。『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズ、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『日本沈没』(2006年)などが当たった映画で、2003年くらいから邦画全盛期と言われる時期が始まりました。
その時、新聞社の発行部数(日本ABC協会調べ)を見ると、2010年までの10年間で400〜500万部減っていました(2000年5370万8281万部→2010年4932万1840部)。これはだいたい、産経新聞と毎日新聞を足したくらいの部数の新聞が日本でとられなくなったということです。同時に新聞広告の売り上げは、2010年までの10年間で何と半分になりました(2000年1兆2000億円→2010年6396億円)。こういう状況下で、新聞社も広告・販売以外の第3の収入を考え始めたということです。
新聞社ではインターネット収入も伸び悩んでいます。15年前ほど前、インターネットの営業部にいた先輩が「見てみろよ、5年後には広告局の売り上げを抜くよ」と言っていました。確かに業界自体はそういう伸びを示していたのですが、実際はヤフーやグーグルというアクセスのあるところに収益はほとんどとられていて、さらに広告だけではなく物販やダウンロードの比重も大きくなって、新聞社は取り残されました。
2009年1月の統計でユニークユーザーは毎日jpの947万人に対して、ヤフーは2700万人。経験則でいくと、数が倍違うと、広告料金は多分3〜4倍違うんですね。ネットの広告ビジネスをやったことがないのではっきりとは言えないのですが、ヤフーの広告売上と毎日jpの広告売上がものすごく違うとは言えると思います。ここ15年でインターネット広告売上が十数倍になっても、新聞社のインターネット収入は伸び悩んでいます。
私がいるのは事業本部ですが、新聞社の事業で一番有名なのは美術展で、毎日新聞社も2012年3月31日からBunkamuraでダ・ヴィンチ展を行います。美術展は新聞社が紙面で伝えていたものを実物で見せるというのが事業の始まりで、歴史が長いです。
ほかにはスポーツ事業があり、毎日新聞社だと都市対抗野球や春の選抜高校野球大会。そして、将棋の名人戦や囲碁の本因坊戦、アワード(表彰)事業やメセナ事業です。朝日新聞社では住宅展示場のような大型事業なども手がけています。
美術展やスポーツ大会は仕込みがかなり大変で、美術展では図録の1つから作っていきますし、作品を借りる交渉もあるので、1つの事業に3〜5年かかってしまうため、1人当たりの事業収益は非常に悪いと言われています。美術グループの人は誇りを持って行われているので、そう言うとすごく怒られるのですが。
一方、映画出資は誰かが作ったものをプロモーションするだけです。今年は5本やりましたが、やろうと思えば1人の担当者で年間3〜5本できます。
映画では製作委員会に出資した中でどれだけの配当があるのかということ以外に、メディアとしての収入もあるんですね。テレビ局や新聞社、雑誌社やラジオ局なんかは有料出稿という収入があるんです。3億円の作品に1%(300万円)出資しても、それ以上の金額の広告をとれる可能性があるのがテレビや新聞の世界です。広告収入でリスクヘッジできることが分かったといいますか、周辺ビジネスがもうかるのではないかということで始めたのです。実際、読売新聞社の場合は広告局が映画に出資していたりします。
広告・販売収入、ネット収入が伸び悩む中、新聞社の事業はかなり様変わりしています。「メセナから収益事業へ」とここ5年くらいずっと言われていることなのですが、会社の持ち出しでやってきた事業を少なくして、お金の入ってくる事業に転換するという形で今もいろんな事業が淘汰され、新しい事業がおこっていると想像していただければと思います。
●絶対に1円も損しない作品もあった
日本の新聞社を米国の新聞社と比べた時の顕著な違いは宅配制度です。米国でも宅配は一部ありますが、主ではなく、日本の新聞社は販売収入に支えられていると言えます。
新聞社が一番良かった時期は、オイルショック以降からインターネットが広まる1996年ころまでと言われます。広告の売り上げと販売の売り上げが一番ピークだったのが多分1990年なのですが、ピークだった時にあぐらをかいてしまった部分が毎日新聞社だけでなく、各新聞社にあると思います。
石川幸憲さんの『ワシントン・ポストはなぜ危機を乗り越えたのか』という本では、ワシントン・ポストが景気の良かった15年間にこれから伸びるであろういろんな業種をM&Aして、それが今、新聞発行を支えているということを書いています。新聞社の売り上げがピークだった当時、M&Aは日本になじまない風習でしたし、そういうことをあまり行わなかったので、今、日本の各新聞社は苦境にあえいでいるのではないかと思います。
かたや、時を同じくして、映画業界が売り上げをあげていったんですね。1つにはシネマコンプレックス(シネコン)が全国に浸透してきたことがあり、今、日本のスクリーンの約80%がシネコンになります。
昔、あるホテルグループがシネコンを出した時、その担当者から面会を求められて、「なぜフィルムが回ってこないんだ」と言われたことがあります。シネコンの草創期、大手配給会社がフィルムを回さなかったということが実際にあったそうです。「どうすればフィルムが回ってくるのかね」という話をされて、「私にはちょっと高度な話なので分かりません」とお答えしました。今では東宝の劇場で松竹の映画がかかったり、松竹の劇場で東映の映画がかかったりと混沌とした状況で、数字が上がれば、日ごとに番組や席数をドライに入れ替えるようになり、それを背景にスクリーン数も増えてきたのですが。
映画の年間興行収入は2000年の1708億円から、2010年には2207億円になりました。そのうち邦画の興行収入は2000年は543億円だったのですが、2010年には1182億円と一気に上がっていきました。邦画本数も2000年の282本(全体は644本)から、2010年に408本(全体は716本)と、邦画隆盛の時代になっていきました。広告・販売以外のビジネスをやろうとした新聞社がこうした急成長を目の当たりにして、「もしかしたらここはドル箱になるんじゃないか」と各社雪崩をうったという形です。
当時、「この映画に出資したら絶対に1円も損しない」という作品が何本かあったんですね。配給・宣伝費は映画会社持ちで、興行で宣伝費が回収できなくても映画会社が持ちますと。さらにビデオグラム※のミニマムギャランティ(最低保証料)がイコール制作費ということで、「宮脇さん、お客さんが1人も入らなくてもこの映画は1円も損しません」と言われた映画がありました。
※ビデオグラム……VHSテープやDVD、Blu-ray Discといった電子記録媒体。
ビデオグラム市場は2006年ごろから縮小していると思うのですが、灯が消える前の一番燃え盛る時期に、「良いタイトルを自分の会社のラインアップに入れたい」ということから、高額なミニマムギャランティで映画が取引されたことがあったのです。しかも邦画が非常に調子が良かった時期で、出資して興行収入が10億円を下回る映画も少なく、当時の興行収入ランキングを見ていて「何であの映画がヒットしたのかよく分からない」という話も出るくらいです。
『宇宙兄弟』という映画を2012年5月3日に公開するのですが、その仕事の時にある版元の人から「宮脇さん、50億円以上の作品をやられたことはありますか?」と聞かれて、「『日本沈没』をやったことがあります」と言ったら、「どうやったら50億円を超すんですか?」と聞かれて、「いやあ思い出せない」と答えたことがあります。
それぐらい邦画に勢いがあった時代があって、当時、小学館、TBS、毎日新聞、東宝が広告宣伝を行って、渋谷でイベントをやった時に号外を出すとかやった覚えもありますが、何でこれだけ数字があがっているのかやっている本人たちも分からないぐらい、振り返れば邦画バブルだったんだろうなあと思うような時代がありました。
●新聞社として映画に出資する強みとは
毎日新聞社が初めて出資した映画は『模倣犯』(2002年)で、『源氏物語 千年の謎』(2011年)で24本目になります。『模倣犯』は10億円を超える興行収入で、ほかにも出資の数倍の配当があった映画もありました。
『レディ・ジョーカー』(2004年)は興行的には残念な結果に終わったのですが、原作を毎日新聞社で出版していたんですね。自社の原作を映画化する体験は初めてだったのですが、原作が20万部くらい追加で売れたので、自社の原作を映画化するのが一番だということに気付きました。これは30年前、角川春樹氏が「読んでから見るか、見てから読むか」というキャッチフレーズで映画を売っていたものを今さら知ったという感じなのですが。
『あらしのよるに』(2005年)は面白い座組みで、原作は講談社なのですが、小学館が出資していました。小学館と毎日新聞社がフィルムから絵本を作ったのですが、17万部売れて、利益は映画の利益より大きくなりました。こういうところでも、広告以外にも入ってくるものがあるんだとよく分かりました。
『手紙』(2006年)も原作は毎日新聞社ですし、『犬と私の10の約束』(2008年)は今、ソフトバンクのCMで有名になったコピーライターの澤本嘉光さんに、広告の空き枠に連載小説を書いてもらって、連載後に出版して8万部、アスキー・メディアワークスで文庫化して7万部売れました。『劇場版MAJOR』(2008年)も絵本が8万部売れました。原作でなくても出版すると大きなビジネスになるということで、他社からよほど「出版してほしくない」と言われた映画以外は関連書籍を出版するようになりました。
ただ、『レディ・ジョーカー』と『手紙』は原作が毎日新聞社なのですが、原作の窓口としての役割は果たしていなかったんですね。当時、そういう発想が新聞社になかったといいますか、新聞広告の何千万円という世界と比べて、窓口手数料は数十万円からとそれほど大きくないので、手間を惜しんでいたんです。
しかし、手間はあるものの、原作権を握るといろんな情報が入ってくると分かったので、私が正式に事業本部に配属された時、『毎日かあさん』の映像化の窓口を任せてもらいました。
『毎日かあさん』のDVDに、原作者の西原理恵子さんに書き下ろしていただいた『毎日かあさん 特別編』という漫画が特典で付いているのですが、その1ページ目が私たちのエピソードです。
最初、私たちも原作者の代理人という概念が分からなくて、小学館の人にお酒を飲みながら「契約書をどう作るの?」と聞いたら、「そんなの渡せるわけないだろ」と言われたので、「何となくこんなものじゃないか」というものを手探り状態で作って、西原さんのところに行きました。すると、「金になるかならんか分からん人に割く時間はございません」と言われて、「そこを何とか30分だけ」と門をこじ開けて入っていきました。
お茶も出されずにとくとくと話して、「じゃあお金が入るなら契約してやる」と言われて、「『毎日かあさん』の映画化の権利を1年間おさえるのは数十万円です」と言ったら、やっとお茶が出てきて、「もしこれが本当に映画化されたらいくらになるの?」と聞かれて、「だいたいこれぐらいですかね」と話をしたら、次から時間をとっていただけるようになりました。ただ、結局映画を作るのには5年かかりましたね。
今ではちゃんと電話にも出ていただけますし、お茶も出していただけますし、先日はちょっとだけおごってもらいましたし、そういう作家さんとの信頼関係ができて良かったと思います。その半面、1からやる怖さや楽しさなど、いろんなものを経験したので、私にとって『毎日かあさん』は一生忘れられない作品になると思います。代理人の仕事では原作者の方を向かないといけないし、映画に出資することになれば今度は映画制作側に立たないといけないので、板挟みな感じの毎日を送ることになるのですが。
よく酒が入った席で、「宮脇さん、個人で映画出資しますか?」と聞かれることがあります。私は「絶対にしません」と言います。なぜなら私は媒体を持っていないからです。
よく、「映画はギャンブルだ」と言われますが、本当にギャンブルかどうかというと、僕は多分違うと思っています。それはなぜかというと、個人投資家と違い、毎日新聞社は所有するメディアを使って宣伝できます。それはTBSや小学館もそうですが、出資社が媒体を持っているがゆえに出資をしているということ、出資に対する配当以外の収益があるからこそ続けられるんだということを常日頃話しています。
●ヒット映画の製作委員会のメンバーは限られている
ちなみに、ヒット映画の製作委員会のメンバーは限られています。テレビ局だと在京局と在阪局。雑誌社だと小学館、集英社、講談社、文藝春秋社、新潮社、角川書店。新聞社は積極的にやっているのは最近、朝日新聞社と読売新聞社、毎日新聞社くらいになりましたが、この3社。ラジオ局ではFM東京。取次では日販、そしてヤフーあたりでだいたいヒット映画の製作委員会は構成されているのではないかと思います。
ここ10年前後でつちかった信頼関係の中での勝利の方程式というのがみんな何となくあって、同じメンバーでグルグル回っているような気がします。その一角に入るのが本当に難しいことで、毎日新聞社も『宇宙兄弟』には頼み込んで入れてもらったという感じです。
もうすぐ日本映画製作者連盟から2011年の興行収入10億円以上の作品が発表になるのですが、その作品名に「製作委員会」を加えて検索すれば、先ほど申し上げた会社でほとんど成り立っていると言っても過言ではないくらいです。その中に今、新しくいろんな会社が入ろうとしているのが現状です。
先ほど『毎日かあさん』の話をしましたが、「もっと早く原作権をとっておけばよかった」と思うことがあります。活字業界では新聞社より先に出版社の方が早く悪い時期を迎えたんですが、その時に彼らが一番目指したのは自社の原作を映画化することでした。その先駆けとなるのは小学館の『ドラえもん』だと思います。早くから入っていると、人間関係ができてくるし、実績もできてくるし、それに契約状況も違うんですね。
原作権について、小学館の人と酒を飲みながら、「メモなんかとっちゃだめだよ」と言われつつ取材していた時、原作使用料は同じ作家であっても出版社が違うと異なってくると聞きました。もっとすごいのはビデオグラム。今度、ビデオやDVD、Blu-ray Discを手に取る時に見ていただきたいのですが、“発売元”“販売元”と分かれていることがあるんですね。多くの出版社、特に小学館は必ず発売元をとるビジネスをしています。そうするとビデオの利益も入ってくるんです。
私もちょっと欲を出して、「ビデオの発売元をやりたいんですけど」と話したら、「DVD市場が今非常に苦しい中、毎日さんが発売元に入ったら、販売元はいなくなりますよ」と言われました。業界が盛り上がっていて高収益だった時に原作権をとっていれば、原作使用料が違っていたでしょうし、ビデオグラムの販売から得られる収入も違っていたでしょうし、ビデオグラムの発売元にもなれたかもしれません。
「2005年に原作権をとっていれば良かったのに」という話は一緒にやっていた人と常に言っていることです。実績がモノを言う世界なので経験があるところに利益が入る、後発が不利だというのはどこの業界も同じだと思うのですが、これは映画業界の原作ビジネスでよく言われていることです。
先ほどの出版社6社がうまく商売をやっているのはうらやましいなあ、先人がいるからいいなあと思うのですが、それはそれぞれの出版社なりに先人たちが苦労した結果です。
小学館は『ドラえもん』『ポケットモンスター』『名探偵コナン』という必ず当たる3作品を持っています。最近は『神様のカルテ』(2011年)や『岳-ガク-』(2011年)のようなチャレンジングな実写映画にも手を出せるようになっています。私は小さな小学館になりたいと思っているのですが、なかなかなれないところです。
集英社は小学館より少し遅れて入ってきたと思うのですが、『ONE PIECE』を中心にいい実績を残しています。
講談社はここ2年くらい映像ビジネスに力を入れ始めていて、最近では『モテキ』『カイジ』『のだめカンタービレ』ですね。あまりヒットしませんでしたが、『一命』(2011年)では製作委員会の幹事会社として取りまとめをしたのですが、そこまで進出したということで、これから積極的に映画を作っていくんだということが外から見ても分かります。
文藝春秋社は今まで映画出資をしていなかったのですが、最近始めました。あくまで私の推測ですが、文芸社の一番大切な仕事は作家先生を抱えていくということなのですが、出版から映像まで面倒をみますよというシフトチェンジをしたのかなと。憶測の域を出ないのですが、村上龍さんが電子書籍の会社を自分で立ち上げた時期と前後しているのは偶然じゃないと思っています。
一方、新潮社は一切映画出資しないというスタンスです。より多くの作品をより早く映像化していくというビジネスに特化しているんじゃないかということが、周りで見ていて感じられます。版権を所持して手数料をとりながら作家を満足させていくというところで、文藝春秋社と新潮社は違ったスタンスをとっているため、この2社の成り行きは注目ということで、私もいろんなところで「この2社は最近どうなの?」と聞くようにしています。
それから『源氏物語 千年の謎』の幹事会社である角川書店。『沈まぬ太陽』(2009年)なども作っているのですが、非常に書店への営業力のある会社で、グループ会社も含めてかなりの営業を書店に張り付けていることが、今回改めて分かりました。多分今、書店に行くと、(『源氏物語 千年の謎』主演の)生田斗真氏のポスターに見つめられるという状況になっています。
またメディアミックスということで、先日『源氏物語 千年の謎』の関連書籍で夢枕獏氏の『秘帖・源氏物語 翁−OKINA』が発売されました。これは単行本・文庫・電子書籍同時発売というものでした。それ自体は珍しくないのですが、角川書店の電子書籍はニコニコ静画と提携していて、小説に一般読者が突っ込めるソーシャルリーディングという非常に思い切ったことをやられているんですね。角川歴彦氏ならでは、夢枕獏氏ならではということで、それが角川書店のすごみだと思っています。
角川書店はかなりネット関連企業と提携しているのですが、先ほど触れた『ワシントン・ポストはなぜ危機を乗り越えたのか』と同じようなことを今、やっているのかなと思います。この前、メディアファクトリーを買収してライトノベル市場で8〜9割のシェアをとったということで、「独占禁止法違反だな」という話を冗談でしたりします(笑)。そうした書籍の利益をうまくいろんなネットの会社に投資しているということで、角川書店がこれからどこに行くのかということも違った意味で注目だと思っています。
30年前の「読んでから見るか、見てから読むか」から始まって、この6社あたりが原作使用料はいくらだとか、ビデオグラムの取り分は何%だとかを決めていった後、新聞社が映画出資に入っていきました。
出版社で映画に関わった第一世代がちょうど定年になる時期なので、最近いろんな昔話を聞く機会があります。酔っぱらいながら聞いた話で、しかも小学館の人と話す時にはメモをとってはいけないというのが鉄則なので間違っているかもしれないですが、例えば小学館では最初は宣伝部に出資部門があって、映画がヒットしなくても「宣伝になったからいいじゃん」で片づけた時期があったそうです。その後、本が売れるなら販売局の利益でやりなよとなって、編集局が出資した時代もあるらしいですが、いろんなところを転々として、『ドラえもん』『ポケットモンスター』『名探偵コナン』という3本柱ができた後にマルチメディア局ができて、やっと自分たちの安住の地ができたころには定年になったということでした。
活字の会社で映画をやるというのは、出版社でさえそんな感じなので、新聞社でも楽な仕事ではないというのがご想像いただけるのではないかと思います。毎日新聞社には社員が約3000人いますが、映画出資の事業に関わっているのは私と入社3年目の女性の2人だけです。ほかの事業も抱えながら、「こんなに仕事したくないのに」と言いながら契約書を読んだり、直したりして、1.5人分くらいが稼働しています。小学館でも、映画はビデオグラム部門合わせて社員7人という少ない人数でやっています。
たまたまなのか必然なのか、去年から今年にかけて新聞連載から生まれたヒット映画が3本ありました。朝日新聞社の『悪人』、読売新聞社の『八日目の蝉』、毎日新聞社の『毎日かあさん』です。ちゃんとした原作がちゃんと映画化されるとヒットすると体感できたのが、この3本の作品だと思います。
新聞や『サンデー毎日』のような雑誌で連載していたものが書籍化されて映画化されると、タイトルの認知は高くなりやすいです。朝日新聞社は初めて自社が原作権を持って映画を作ったのですが、「これだけビジネスメリットがあるんだな」と担当者が言っていたように聞いています。
先ほど申し上げた通り、映画は作り始めたところにいないと利益誘導しにくいので、そういう意味でも朝日新聞社などは自社の原作を映画化していくことを積極的に行っていくでしょうし、毎日新聞社でも『毎日かあさん』のようなことをどんどんやっていかないといけないと思っています。
●映画市場は変わったか?
それでは2011年はどうだったのかという話なのですが、震災の影響ではないとみんな言ってはいるのですが非常に悪い成績で、2010年比80%台かなと業界ではささやかれています。2010年の興行収入2207億円から20%落ちるということで、1800億円くらいですね。1999年以来の1800億円台かということなのですが、怖いのはスクリーン数が当時と全然違っているんですね(1999年2221スクリーン、2011年3340スクリーン)。
「今年はダメだったね」とあからさまに言ってしまうのが映画業界のいいところなのですが、何となく「構造的にやばいんじゃないかな」という雰囲気も漂っています。負けた映画を持ってきた人でも次にまたケロッと負けそうな映画を持ってきてくれることが僕が映画業界の大好きなところで、1作終わればリセットというところが映画気質と言いますか、「次はもうけさせてやるからさ」とは必ず言わない彼らの潔さが非常に大好きで、滅多に真面目な話をする人もいなかったのですが、最近は「構造が変わったかもしれないね」と言う人も多くなってきました。スクリーン数は多分今年が最後の増加になって、来年から減少していくのではないでしょうか。スクリーン数の減りと、それに伴う興行収入の減りがどこまで抑えられるのかということですね。
みんな表の場では「震災の影響はなかった」と言います。しかし、当時『毎日かあさん』を上映していたのですが、お客さんの入りは前週比20%になりました。80%マイナスでそのまま回復せずに終わったのですが、やはり狭いところに行きたくなかったからということでしょうか。
また、邦画はみんな『世界の中心で、愛をさけぶ』をモデルに作っていると言っても過言ではないと思います。難病の登場人物がいて泣ける、誰かが死ぬというところでドラマツルギーがあったのですが、そういう映画が当たらなくなりました。
『アントキノイノチ』(2011年)には期待していたのですが、初日と2日目で興行収入が8000万円ほどというのを見た時、やっぱりつらい現実を見た人がもっとつらい現実を劇場にお金払って見に行かないんだなということをすごく感じました。『アントキノイノチ』が当たらなくて、『モテキ』が当たるというのが今の邦画市場なのかなと思っています。
そういう形で市場が変わったのではないかと言われているのですが、毎日新聞社では映画出資を10年間続けてきて、負けてもいるのですが、いまだに出資した以上の配当が返ってきているという実績があります。こういう会社は珍しいらしいのですが、この貯金がなくなったら解散しますと上には言っています。
邦画バブルの時期に自社の原作を映画化できるようになったので、小学館や集英社、角川書店には後れをとっていますが、もう1回頑張ってみようと思っています。原作の窓口をおさえることもそうですが、例えば新聞に載った事実を小説にして映画化するというなかなか具体的にならない案とか、いろいろあったりします。
次は、朝日新聞社が映画化した『悪人』の原作者である吉田修一氏の新聞連載『横道世之介』を映画化するのですが、原作から映画を作って新聞社に何ができるのかということを体感して、後輩たちに残していきたいと思っています。
また、それとは別に、ODS(非映画コンテンツ)をやってみたいと思っています。例えば、今はやっていないですがAKB48の総選挙やじゃんけん大会を劇場で中継するといったことです。ティ・ジョイの劇団☆新感線シリーズや松竹のシネマ歌舞伎がODSの先駆けだと思うのですが、ニッチな人に向けた非映画コンテンツを作って、収益をあげるビジネスをやっていこうと考えています。
囲碁将棋の担当者が今、私の隣に座っているのですが、朝日新聞と共催している将棋の名人戦よりもうかる試合が1つあるらしいんですね。それは名人への挑戦者を決めるA級順位戦で、ものすごく盛り上がって千駄ヶ谷の将棋会館は人があふれるという話を聞いています。それを全国の劇場で流せばどうなるかという話を今、ある映画会社と話しています。
都市対抗野球も非常にニッチなのですが、ある映画会社の営業に「東京ドームで試合をやるんだけど、例えばJR九州が出場した時、社員は東京まで見に来れないから、JR九州の大きな支店がある地域の劇場で流したら、企業動員できるんじゃないか」と話したら食いついてきました。ただ、「トーナメントなので、1回戦はおさえられても、勝ち進むか分からないので2回戦以降はどうすればいいのかという問題はあるね」という話もありますが。
なぜその2つをやるのかというと、CS放送が入っているため、制作費が限りなく安く済むからということがあります。そういうコンテンツをもし映画館で流したらどうなるのかということを、リスクをあまりかぶらずにできるんじゃないかと。
なぜこれをやり始めたかというと、はっきり申し上げると『犬と私の10の約束』『劇場版MAJOR』『毎日かあさん』などは良かったのですが、そのほかの作品が結構苦戦しているんです。広告収入があったり、出版収入があったりしていいじゃんという話を今までしていましたが、「じゃあ事業本部単体の利益はどうなの?」ということが最近問われています。
「出資に対するリターンがこの成績だと映画事業は続けられない」というようなことを部門長から言われていて、事業本部にメリットのあることは何かと考えたらそういうことなのかなと。原価を抑えて映像化できれば、ある程度の収益になるのではないかと思っています。
●五月雨をあつめてはやし最上川
『あらしのよるに』は伊藤忠商事が出資しているのですが、名刺交換をした時、モリゾーとキッコロの絵が描いてあったんですね。ちょうど愛・地球博の時だったのですが、「終わったらどうするんですか」と聞いたら、「いや、考えていない」と。
CSR(企業の社会的責任)が言われ始めたころだったので、「いやいや、モリゾーとキッコロという環境のキャラクターを持っている会社が終わったら知らんぷりということは、きっと許されないはずですよ。実はうちに『MOTTAINAI※』というキャンペーンがあって、商品を作りたいのですが、新聞社には商品作りのノウハウがないので一緒にやりませんか」と、「あらしのよるに」製作委員会が月1回あったので、会うたびにしつこく言っていたんです。
※MOTTAINAIキャンペーン……ケニアでの植林活動(グリーンベルト運動)が評価されて、2004年に環境分野として初のノーベル平和賞を受賞した故ワンガリ・マータイ氏が始めたキャンペーン。「もったいない」は3R(Reduce、Reuse、Recycle)をひと言で表す言葉で、命の大切さや、地球資源に対するRespectという意味も込められていることから名付けられた。
すると、「じゃあ話を聞いてみよう」となって、伊藤忠商事の人と、MOTTAINAIキャンペーンを担当していた僕の先輩を引き合わせたところ、話がトントン拍子に進みました。もともと先輩はMOTTAINAIのロゴを使ったTシャツを作っていたのですが、伊藤忠商事の協力で8000アイテムくらいの商品が日本に出回って、そのロイヤリティが毎日新聞社の事務局経費、伊藤忠商事の手数料、グリーンベルト運動への寄付に回されることになりました。今までエンタテインメントの仕事ばかりしていたので、環境に貢献する仕事ができて良かったと思うと同時に、新聞社がロイヤリティ収入を初めて体感したのが、このMOTTAINAIキャンペーンなんですね。
今までの新聞社は400万部新聞を売って収入がいくらだとか、15段の広告を1本この会社に売ったら何千万円だとか利幅の大きい仕事をして生き延びてきました。しかし、広告の売り上げが10年間で半分になって、もっと言うと私が入社した1990年と比べると4分の1くらいになっていると思うんですね。大きな商売がしづらくなった中、MOTTAINAIキャンペーンのロイヤリティ収入がいくらとは言えないのですが、2010年にかなりの数字があがったことを見て、ちょっと社員の意識が変わってきたのかなと。
ODSで将棋の中継をやっても、もうかるお金は多分大したことはないと思うんですね。数十万円くらいだと思います。入社1〜5年目の後輩たちと酒を飲む機会もよくあるのですが、その時に「新聞社はこれからどうやって生きていったらいいんですかね?」と聞かれた時、僕は必ず「五月雨をあつめてはやし最上川」と言います。新聞社は今までみたいなおいしい商売はできないし、ガラッと変える収入源もきっとないはずなんです。だから、原作の窓口のように手間を考えると大した収入ではないですが、今までロスしていたものを煩雑にはなりますが、取っていくしかないのかなと。
新聞社はロスしている部分ってものすごく多いんですね。今まで見捨てていた10万円も10本集めれば100万円ですし、100万円も10本集めれば1000万円なので、そういったビジネスチャンスを多く生かしていくことが今後の新聞社の生き残り方かと思います。
新聞も電子ペーパーとかいろいろ変革の時期があると思いますが、そんなにもうかる仕事ではないと思います。iPhoneでも一番読まれているのは多分産経新聞だと思います。残念ながら、タダのものが一番読まれているという状況なので、新聞社がこれから大きなお金を集めていくのは至難の業かなと。
「もし将来があるとするなら、今までめんどくさくてやらなかったことをたくさん集めていくしかない」という、あまり夢のない話をいつもしていて、後輩から「それしかないですかね?」と問われて、「それしかないんだ」と答えるような、なかなか夢を描けないような時代になってきました。
ただ、時代の変革期は多分いろんなことがあると思います。田舎の大学から東京の新聞社に入って、広告の仕事は先輩がたくさんいたのですが、映像の仕事についてはほとんど手探りで今までやってきて、何とかなっているということで、気持ちが折れない限りは何かできるのではないかと思っています。ビジネスとロマンが両立しないと映画は成り立たないと思っていますが、どちらもものすごく大切だということで今日の話を締めさせていただきます。
●出資を決めるポイントは?
——出資する映画を決めるに当たって、どういったことがポイントになるのでしょうか。
宮脇 これは非常に難しいところで、今まさに私が問われているところです。持ち込まれる映画がほとんどで、ある映画をやっている時に「次にこんな映画があるけど入らない?」と誘われたり、毎日新聞社が映画に出資していると聞いた人が飛びこみで来るところもあります。
飛びこみで来た人に必ず言うのですが、まず配給が決まっていることですね。邦画は2010年に408本上映されていますが、作られているのは600本くらい、もしくはそれ以上かもしれません。松竹、東宝、東映などの映画会社が作っていれば配給が決まっているわけですが、持ち込まれる映画は決まっていない場合が多いんですね。配給されない映画は収入がないので、「配給が決まっていないなら、うちではちょっと出資の検討はできません」と話します。
もう1つは、当たる確率があるかです。そこは非常に難しいところで、データはあります。例えば、2010年に興行収入が25億円以上いった作品は12本ありますが、そのうちの1本以外はある会社なんですね。だから、そのある会社の映画がいいんじゃないかという判断も働きます。
あとは監督やキャスト。例えば(プロモーションで)すごく稼働してくれるキャストもいれば、スケジュールもあると思うのですが稼働してくれないキャストもいると思います。今回の『源氏物語 千年の謎』では、「生田斗真さんに会ったらみんなで頭を下げよう」と言うくらいいろんな番組に出ていただきました。タレントとしてのバリューもありますが、タレントのバリュー+どうやってプロモーションしていただけるかということが大事です。
だからまず配給会社があって、それから映画の内容、原作が売れているのかということもありますし、キャストが誰か、前後に映画が決まっているか、映画のプロモーションをやってくれるかということとか、いろんな条件が積み重なっていって、最終的に脚本も読みますし、そういうものを全部考慮した上で、経験からこれくらいいくんじゃないかというものに出資するという感じですね。
持ち込まれる映画は多い時で月に10本くらい来る時もありますし、来ない時はまったく来ません。今月はまったく来ていないのですが、その中で持ち込まれたものを精査していきます。
別のパターンとしては、『宇宙兄弟』は僕は全然原作を知らなかったのですが、広告局で宇宙の企画をやっている後輩から「宮脇さん、『宇宙兄弟』に出資しないんですか。この1話読み切りを読んでください」と言われたのがきっかけです。『宇宙兄弟』のWebサイトに1話読み切りが載っているのですが、それを読んだ瞬間、私は涙があふれて「これはいける」と思い、作っていたのがたまたま『岳-ガク-』のプロデューサーだったので、すぐに電話をして、「製作委員会入れてよ」と話したというところです。これからはどちらかというと、そういう形を多くしていきたいと思っています。
例えば、フジテレビが出資している映画の製作委員会を見ていただければ分かると思うのですが、多分配給会社と原作者と系列しか入っていないと思うんですね。もうかる自信があるから、ほかにパーセンテージを渡したくないということです。角川書店も以前はそういう感じでやっていました。やはり、「これはもうかる」と思ったものをみんな薄めたくないんです。
——宮脇さんの評価はどのように決まるのですか。
宮脇 評価は見る人によって違います。社長は「全体最適だ」と言っています。ある映画に出資したら、全体としてもうかればいいんじゃないかと。この前、広告局にちょっと出資させたら、結果的には良かったらしいのですが、「あまりリスクはとりたくない」と言われて、「たくさん広告もらっているでしょ」と返したら、「ごちそうさまです」と言われました。出版局も関連書籍を出して、2回ほど売れなかったことがあるのですが、それ以外は全部売れているので、横のつながり的な評価はいいです。
しかし、事業本部という部署にいる限り、「じゃあ、事業本部の利益はどうなの?」と言われた時が一番「うっ」というところで、「広告がこんなに入ってきましたし、関連書籍も売れましたし」と言ったら、「お前は幸福な王子か。お前の金品を人に渡しているのか。どこにいるんだつばめは」と怒られて、やはり事業本部に出資がどれだけ戻ってくるかを評価軸にしないと、いろんな言いわけをしているだろうと言われるので、反省も含めて来年以降は自分の価値は投資したものがどれだけ返ってくるかということ1点に絞りますし、会社的にもそういう方向に向かっています。
——大成功と大失敗について教えてください。
宮脇 何を持って大成功や大失敗というかが難しいですね。
『日本沈没』が53億円の興行収入をあげた時、夏公開だったのですが、8月に携帯電話に知らない電話番号から着信があって、私の中学校の同級生だったのですが、酔っぱらった声で「おお、祐介。今、同窓会でお前の名前が話題になっている。『日本沈没』で最後に出てきた名前はお前か?」と聞いてきたので、「俺だ」と答えたら、「何で同窓会に来ないんだ、みんなムッとしてるんだよ」と言われて、「いや、呼ばれていないし」みたいな話だったのですが、その時に53億円という興行収入のすごさを感じました。
もう1つ、自分の仕事で成功したのは『毎日かあさん』だと思います。「よく素人でここまでできたな」と思います。私は本当に一生懸命いろんなところに、酒を飲みに行きましょうと言って、酔っぱらいながら取材したのですが、だいたいみんな「裏があるな。何か聞きたいんだなこいつ」というのが分かるんですね。でも、それでも教えてくれた人がたくさんいて、その人たちが定年になったり、定年間近になったりしているのですが、映画業界の中でも出版社、特に小学館の方々にはお世話になって教えてもらいました。
その聞きかじりで『毎日かあさん』を映画化できて、アニメ放送もできたというのは大成功だったと個人的には思っていますが、会社的には「ちょっと損してんじゃないの?」と言われています。
大失敗はこれから起きそうですね。先ほど言ったように自社の作品を映画化する時、出版社の立場として作家先生の代理をやらないといけないというところと、映画制作をやるというところが、一致する部分がほとんどなのですが、相反するところがきっと出てくると思います。作家先生が出版社に原作権を任せるということは、「自分を出版社が守ってくれる」という気持ちがきっとあると思うので、そういうところで多分板挟みになって大失敗するんじゃないか、それが怖いなと思いながら日々仕事をしています。
出資をして1円も戻ってこなかったという映画もありますが、それはそれなりに次のプロジェクトにつながったり、広告収入が多かったりということがあるので、大失敗というのは多分これから起きるんじゃないかと思っています。[堀内彰宏,Business Media 誠]
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